MaximのMAX662A(5V⇒12VチャージポンプDC-DCコンバータ)で12Vを超える出力を得る

Maximから出ているICで、MAX662Aという5V単電源から12Vを得るDC-DCコンバータがあります。このICはチャージポンプ方式なのでインダクタが不要で、外付けするのは小型・小容量のコンデンサ4個のみと手軽に使えるのが利点です。もう1つ、秋月で購入できるというのも大きな利点です。(※注:秋月に商品番号I-00232としてMAX662AのDIPパッケージ品がありました。本稿作成現在、まだ通販サイトには登録されていないようです。)

12Vを得る回路例(MAX662Aデータシートから抜粋)


データシートにはこのICを使って20Vを得る回路例も載っていますが、もともと4個しかない外付け部品が8個に倍増しています。(MAX662Aデータシートから抜粋)


この回路例では外付け部品でもう1段チャージポンプを増やして、出力電圧を上げています。部品の追加はそのために止むを得ないものなのですが、あとほんのちょっとだけ電圧を上げたいという場合にはデータシートに載っていない別の方法があるので、それを紹介します。

※注:この方法はPICプログラマを作成するために考案しました。PICのプログラミング(書き込み)の際、PICの品種によっては13Vが必要です。MAX662Aを普通に使うと12Vは簡単に取り出せるのですが、13Vを取り出すには外付けの回路で一工夫する必要があります。その外付け回路を最小化したいというのが考案の動機です。


MAX662Aの本質は3倍圧チャージポンプ回路

MAX662Aのブロックダイアグラムを見ると、MAX662Aの昇圧回路は本質的には3倍圧を得るチャージポンプ回路であることが分かります。(MAX662Aデータシートから抜粋)


C1とC2のチャージポンプで電源電圧の3倍の電圧を作り出し、それを外付けのコンデンサC5で平滑します。それだけでは5V電源で15V出力になってしまうので、平滑コンデンサの電圧が12Vを超えたらチャージポンプを一時停止し、12Vを切ったら再度チャージポンプを動作させるという間欠動作を行うことで12V出力を得ています。

ということは、この間欠動作を抑制することができれば5V電源で15Vの出力が得られることになります。


3倍圧チャージポンプ回路を常に動作させる

もう一度上のブロックダイアグラムを見ると、平滑コンデンサの電圧はVOUTピンの電圧でチェックしており、VOUTピンの電圧が12Vを超えている場合はチャージポンプの動作を停止することが分かります。ということは、VOUTピンの電圧が12Vを超えないようにすればチャージポンプは常に動作を続けるはずです。

VOUTピンはチャージポンプの出力ピンなので、このピンの電圧を12V以下に維持したのでは結局12Vを超える出力は得られないように思えます。しかし実際には、VOUTピンへのチャージポンプ電圧の出力はパルス状になるため、VOUTピンにチャージポンプ電圧が出力されていない期間であれば12V以下に電圧を下げても問題はありません。

また、VOUTピンにチャージポンプ電圧が出力されている期間は平滑コンデンサやパターンのインピーダンスの影響によってVOUTピンの電圧が実際の平滑コンデンサの両端電圧よりも高くなってしまうため、VOUTピンの電圧をチェックするタイミングはチャージポンプ電圧が出力されていない期間になっているはずです。

よって、VOUTピンにチャージポンプ電圧が出力されている期間はその電圧をコンデンサに蓄え、出力されていない期間はVOUTピンの電圧を12V以下に下げることができれば、出力電圧は12Vを超えて、電源の3倍圧が得られることになります。

そのための回路図は次のようになります。12V出力時と比較すると、外付け部品はダイオードが1個増えます。


VOUTから出力される電圧は、チャージポンプ電圧の出力期間中は電源電圧の3倍圧になります。いったんダイオードを通すことで、このチャージポンプ電圧出力を取り出して平滑コンデンサに入力します。

VOUTピンはチップ内のR1, R2でGNDに接続されており、チャージポンプ電圧が出力されていない期間のVOUTピンの電圧は速やかに下がるので、チャージポンプ回路の間欠動作が抑制され電源電圧の3倍圧が常時出力されます。


出力電圧・出力電流特性

上の回路の出力電圧・出力電流特性を考察してみます。

MAX662AはCMOSなので、出力が無負荷(出力電流がゼロ)であれば電圧降下はほとんど発生せず、そのときのチャージポンプ出力電圧はほぼ電源電圧の3倍になるはずです。ですので、電源電圧を4.5V〜5.5Vと仮定すると、MAX662Aからの出力電圧は13.5V〜16.5Vとなります。

チャージポンプのスイッチはMOSFETが使われているはずなので、出力電流による電圧降下はほとんどMOSFETのドレイン・ソース間抵抗によって発生し、その傾向は純抵抗に似たものになるはずです。

下図はデータシートの出力電圧vs出力電流の図に加筆したものです。出力電流がゼロの場合の出力電圧を電源電圧の3倍、電圧降下が純抵抗によって生じていると仮定した場合の特性を赤線で加筆しました。
(縦に長いので注意)


この図から、出力電流が10mAの場合のMAX662Aからの出力電圧は13V〜16Vとなることが分かります。(もちろん「仮定が正しいとすれば」です。仮定が正しいことの保証はできませんので悪しからず。)

図からMAX662Aからの出力電圧を求めたら、あとはダイオードの順方向電圧VFを引き、出力電圧の出力周波数(データシートから約500kHz)と平滑コンデンサの容量から脈流の程度が計算できます。VFの低いショットキーダイオードを使えば、電源電圧が4.5Vのときに出力電圧13V以上で出力電流が数mA、出力電圧12.5V以上ならば出力電流が20mA程度取れることが分かります。

なお、この回路による出力電圧は安定化されていないので、安定化が必要な場合は別途安定化回路が必要になります。



7/29/2007 作成


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